芝居は辛い

「お芝居は辛いんだよ」もうこの言葉を何度口にしたか、私は毎公演必ずこの言葉を口にしている。
それは沢山の意味を孕んでいるから、この演出雑記に全て書くことは不可能だ。
ただ一つ言えることは、苦しまなければより良いものは出来ないのだ。
さて、演出雑記も終盤に差し掛かっているわけですが、本日はもう一人の美津江役を演じた 大和田紗希さんについて振り返りたい。
大和田さんの第一印象は、「辛い」だった。どんな角度から切り取っても眺めても「辛い」物しか出てこなかった。しかし、そのことに質問を投げても今一つ納得の返答が得られず、最後は「解らない人」であった。
最初は私も随分悩んだけど、よくわからないけが、こういう人としっかり向き合えるようになりたいなと思ったのが、配役の決め手だった。
稽古が進んでいくにつれて、大和田さんと私はベースが似ているらしく、色々と共通点が出てきた。といっても昔の私だったらとてもかなわない、魅力的な人であるんだけれど。

辛そうだ、と言う私の言葉とは裏腹に、本人その事について、あまりわかってないと思うし、そんなことないっていうのかもしれないけれど、私の眼球を通して観ているとそうやって映るのだ。そうこうしているうちに、私はある日「美津江ってこういう人なんだなぁ」と思った。そうなってしまってからは、芝居が早かった。
大和田さんがどんなに辛そうでも、美津江なんだと思ったら残酷にも芝居がどんどん作れてしまう。
私の中ではポンポン生まれてくるのに、大和田さんはとても苦しんだと思う。
こんな思いをして、どうしてやらなければいけないの?解らない!って思った時が、もしかしたらあったかもしれない。でも、それが演劇。それが美津江の気持ちなんだと思う。
だから、納得できる日なんて来ないし、ずっとこのままなんだよ。と伝えたい。
でもそれは、ある意味俳優としては大きな成長痛であって、役を通して公演が終わった時の観客からの拍手を全身に受けた時は自分を誉めたいって思ったんじゃないかな。私もそう思う。
いっぱい悩んで苦しんで演じ切る。それは俳優の定めだと思う。
大和田さんには沢山演出から注文を付けた、彼女はそれを精一杯最後まであきらめずにやりきってくれた。
その気持ちと姿勢が観客の感動を生んだんだと思う。私自身もとても感動した。
紗希ちゃん、素敵な美津江をありがとう!本当に良かったね!

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