演出雑記05
2025.10.27

役に近づくか、近づけるか

これ俳優さんにとって永遠のテーマだったりする。
理想は両方とって、台本で描かれている人物でもあるけれど、この俳優にしかやれない、オリジナルがあるっていうのが理想なのかもしれない。

それは俳優一人ではできない作業だから、演出と協力して作って行くんだと思う。
さて、今日は我らがヒロイン 渡部桃加さん を振り返りたいと思う。

桃加さんは他の俳優陣よりも、初舞台ということで不安も多く一足先に稽古場へ通ってきてくれた。
中村君とも稽古日程があわなかったので、最初は私と二人きりでのマンツーマン稽古が何度かあった。そういう意味では私も丁寧に色々と教える事が出来た。
桃加さんの飲み込みはとにかく早く、一言言えば理解してやってくれるし、具体的な演技のノウハウなんかもすぐに形にすることが出来た。
これは私が個人的に思ったことなのだが、彼女は一時古典芸能をやっていた事があるらしく、舞台の大事な基礎を学んでいたという事だ。そして大切な事として、伝えられた内容を理解する処理能力や実践して体へ入れていく作業が出来る人であった。
これもひとえに彼女が学生時代に芸能関係の先生方がしっかり指導してくれたおかげなんだろうと感じた。
ドラマシアターをはじめてつくづく、演技の基礎を専門的な所で学ぶというのは大切な事なんだと桃加さんを通して実感した。

そしてそんな桃加さんは、なんにでもすんなりやってのけてしまうので、ある日本番一か月以上前であったが、私の中で「もう桃加はこれ以上稽古しないほうが良いし、つぶれてしまう」と判断した。(本人は否定するだろうけど)そして桃加さんは9月に入ってからは殆ど稽古をしなかった。

これは、俳優さんからしたらある意味損な役まわりだったのかもしれない。演目を通して新たな挑戦が出来なくなってしまうからだ。でも、今回は桃加さんの初舞台であり、明らかに彼女の代表作品になることは解っていたので、新しい挑戦をするのではなく本番までのポテンシャルを上げていく作業へと舵を切り替えた。

最後まで役と自分のせめぎあいで戦うのか、自身の作り上げた人物を如何に新鮮な気持ちで反復させるのか、そのどちらも俳優には求められるし、大変な作業だと思う。

そういった意味では、桃加さんは今回、後者に専念してもらい、最高の舞台を作ってもらおうと思った。本番桃加さんは一生懸命美津江を演じてくれた。客席の距離も近くあのような満席の空間で二人芝居というのは大きな経験であったと思うし。それを堂々と演じてくれて、鬼気迫るものまで感じた。

桃加さんの美津江は言葉では説明できない闇が多く、その闇を演出で打ち消す作業であった。
彼女の演技にリアリティを感じるか感じないかは観客次第であると思うのだが、私は桃加さんの美津江はALL、OK。

彼女がこの先女優として様々な役に挑戦して育ってくれる事を願わずにはいられない。

@pon_suka_pon

【御礼とご報告】 皆様、先日の公演に足をお運びいただき、誠にありがとうございました。

そして、今回もアンケートにご協力いただき心より感謝申し上げます。 集計したところ、アンケート回収率は前回公演に引き続き、81%を超える結果となりました

皆様からいただく一つ一つの言葉が、私たちの何よりの励みです。いただいたご感想はすべて大切に拝読し、次回の創作の糧とさせていただきます。 本当にありがとうございました!

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